ADHDの人は音がある方が集中しやすい?精神科医が考え方を解説
「静かな場所のほうが集中できる」と言われることがあります。一方で、ADHD(注意欠如・多動症)の傾向がある方の中には、無音よりも、一定の音があるほうが作業しやすいと感じる方もいます。近年、この現象については研究の中でも少しずつ調べられるようになってきました。この記事では、現時点で分かっていること、まだ分かっていないこと、そして日常でどう試してみればよいかを整理してご紹介します。ただし、効果には個人差が大きく、すべての方に当てはまるわけではありません。また、標準的な診療や治療の代わりになるものでもありません。
ADHDの方は「音」に影響されやすいのでしょうか
ADHDでは、不注意、多動性、衝動性といった特徴がみられます。診断は、症状の経過、生活への影響、発達の背景などを踏まえて総合的に行うものであり、脳波検査だけで診断するものではありません。
脳波研究では、ADHDの方に、安静時のtheta/beta比や注意課題中の神経活動に一定の特徴が報告されてきました。ただし、その所見は年齢、課題、測定条件、解析方法によってかなりばらつきがあり、ADHDの脳波が一様に「乱れている」とまでは言えません。
なぜ「音」が集中に関係することがあるのか
一部の研究では、ADHDまたはADHD傾向のある方において、一定の音があるほうが注意課題の成績が良くなる場合があることが報告されています。ただし重要なのは、この効果は限定的で、課題や個人によって結果が異なることです。つまり、現時点で言えるのは、「音があれば集中できる」と断定することではなく、「自分に合う音環境だと作業しやすくなる方がいる」という整理です。この後の章で、どのような音が候補になるのか、そしてなぜそうしたことが起こりうると考えられているのかを、順番にご紹介します。
このテーマについて、洗足心療内科クリニック公式YouTubeでもわかりやすく解説しています。
「ADHDの人は音がある方が集中しやすい?」という疑問について、音環境との付き合い方や注意点を含めてご紹介しています。
当院公式YouTubeで「ADHD × SOUND」を配信しています
洗足心療内科クリニックでは、集中したい時間や作業時の音環境の選択肢として、公式YouTubeチャンネルで「ADHD × SOUND」を配信しています。治療を目的とした音源ではなく、作業環境を整える方法の一つとして、ご自身に合うかどうかを無理のない範囲でお試しください。
ホワイトノイズとは
候補としてよく挙げられる音の一つが、ホワイトノイズです。幅広い周波数成分を均等に含み、「サー」という一定の音として聞こえることがあるノイズで、テレビの砂嵐の音や換気扇の音に近いものとイメージすると分かりやすいかもしれません。周囲の生活音や話し声を目立ちにくくする「音のカーテン」のような役割で使われることがあります。
ピンクノイズ(モモイロノイズ)とは
もう一つの候補が、ピンクノイズ(モモイロノイズ)です。以後、この記事では「ピンクノイズ」と表記します。ホワイトノイズと比べて低い周波数成分が相対的に強く、聴いた印象としてはより柔らかく感じられることがあります。雨音や川のせせらぎのような自然音に近い印象を受けることもありますが、これはあくまで聴いた印象の話であり、雨音そのものに特別な効果が科学的に確認されているという意味ではない点にご注意ください。
ADHDとノイズについて研究では何が分かっている?
この分野の研究は、2007年にスウェーデンの研究グループが発表した実験がよく知られています。ADHDの子どもたちにホワイトノイズを聞かせながら記憶課題を行ってもらったところ、ADHD群では課題の成績が良くなった一方、ADHDのない対照群ではかえって成績が下がった、という結果が報告されました。
その後、複数の研究チームがこのテーマを検証してきました。2024年に発表された系統的レビュー・メタ解析(13件の研究、参加者335名を統合したもの)では、ADHDまたは強いADHD症状を持つ子ども・若年成人において、ホワイトノイズやピンクノイズを聞くことで注意に関する課題の成績にわずかな改善がみられたと報告されています。ただし、この改善の大きさは統計的には「小さい」と評価されており、劇的な変化ではありません。さらに重要な点として、この同じレビューでは、ADHDのない比較群ではむしろ成績が下がる傾向がみられたとも報告されています。つまり、「誰にでも効く」音ではなく、ADHDの特性がある方に限って効果が見られる可能性がある、という非対称な結果です。
一方で、同じような条件で行われた別の研究では、効果がはっきり確認できなかったという報告もあります。研究によって結果に一貫性がない部分も多く、この分野はまだ研究が発展している途中の段階です。
また、これらの研究の多くは、子どもを対象に、実験室で行うワーキングメモリ課題や単語記憶課題などの「認知課題の成績」を見たものであり、日常生活での集中しやすさや、ADHDそのものの症状(不注意・多動性・衝動性)が改善するかどうかを直接調べたものではありません。この違いは重要です。
「確率共鳴」という考え方
なぜ、適度なノイズが一部の人の課題成績を助けることがあるのか。その仕組みを説明する仮説の一つとして、「確率共鳴(かくりつきょうめい、stochastic resonance)」という考え方が研究者の間で参照されています。
確率共鳴とは、ごく簡単に言うと、「本来は弱くて捉えにくい信号に、ある程度のノイズを加えることで、かえってその信号を検出しやすくなることがある」という現象です。神経系のように、一定の閾値を超えないと反応が起きない仕組みを持つシステムでは、この現象が起こりうると考えられています。
ADHDの研究では、「脳の覚醒度がもともと低めの状態にある方に、外部からの適度なノイズが加わることで、必要な情報がかえって処理されやすくなるのではないか」という仮説(Moderate Brain Arousalモデルと呼ばれます)の中で、この確率共鳴という考え方が引用されています。
ただし、これはあくまで「研究されている仮説の一つ」であり、確立した治療メカニズムとして証明されたものではありません。確率共鳴だけですべてを説明できるとは限らず、他の要因が関わっている可能性も指摘されています。
誰にでも同じ効果があるわけではない
ここまで見てきたように、ノイズの効果には重要な限界があります。
- 効果が報告されている研究の多くは、子どもを対象にした実験室での認知課題です。成人や、日常生活・仕事の場面でも同じように当てはまるとは限りません
- 報告されている効果の大きさは「小さい」ものであり、劇的な変化を期待するものではありません
- ADHDのない方では、むしろ音が逆効果(集中の妨げ)になる可能性がある、という研究結果があります
- 研究によって結果が一致しない部分もあり、今後さらに検証が必要な分野です
また、音が合わない方もいます。かえって気が散る、疲れる、頭痛がする、不快感が強いということもあります。長時間・大音量で聞けばよいというものでもありません。そのため、不快感があれば中止する、音量は上げすぎない、「これで治る」と期待しすぎない、困りごとが強い場合は診察で相談する、という考え方が大切です。
自分に合う音環境を探してみる
音を試す場合は、治療としてではなく、作業環境の調整の一つとして考えるのが安全です。たとえば、同じ作業を次の3条件で短時間ずつ比べてみる方法があります。
- 無音
- ホワイトノイズや環境音
- 自分が気になる音源
そのうえで、集中しやすさ、作業量、ミスの数、疲れやすさを見ていくと、「何となく合う気がする」ではなく、自分に合うかどうかを整理しやすくなります。
音を試す時間を区切る際は、25分作業して短い休憩を挟む「ポモドーロ・テクニック」のような時間管理の方法と組み合わせるのも一つの工夫です。
自分に合う音環境を探してみる
音の感じ方や集中しやすさには個人差があります。無音・環境音・一定の音などを比べながら、ご自身が作業しやすい環境を探してみてください。ADHDの可能性そのものが気になる方は、当院のセルフチェックもご利用いただけます。
まず5分程度から試してみる
洗足心療内科クリニックの公式YouTubeでは、オルゴール調の音に、ホワイトノイズやモモイロノイズ等、周囲の雑音(「ザー」という音等)を目立ちにくくする「マスキング」という音響工学の考え方を取り入れた「ADHD × SOUND」を公開しています。
興味がある方は、まず5分程度から試してみてください。音量は控えめにし、自分にとって心地よいか、作業しやすいかを確認してみましょう。
「集中できるか」を無理に確かめようとする必要はありません。音が心地よいか、気にならないか、逆に疲れたり不快に感じたりしないかなど、ご自身の感覚を確かめる時間としてお試しください。
合わないと感じた場合や、不快感・疲れを感じた場合は、無理に続ける必要はありません。
まとめ
ADHDの方の中には、無音よりも、一定の音があるほうが作業しやすい方がいます。研究では、ホワイトノイズやピンクノイズを聞くことで、注意に関する課題の成績にわずかな改善がみられたという報告がある一方、効果は小さく、ADHDのない方にはむしろ逆効果になる可能性があることも分かっています。
「確率共鳴」のような仕組みの仮説はありますが、まだ研究段階であり、「この音を聴けば集中できる」「ADHDが改善する」と言い切れるものではありません。
音環境の調整は、治療ではなく、あくまで日常生活の工夫の一つです。「自分に合う環境がわからない」「集中しづらさが仕事や生活に影響している」「ADHDかもしれないと感じている」そのような場合は、背景も含めてご相談ください。
動画でも解説しています:「ADHDの人は音がある方が集中しやすい?|精神科医が解説」
集中しづらさが仕事や生活に影響している方へ
音環境の工夫だけでは解決しにくい場合や、ADHDの可能性について気になっている場合は、症状の経過や生活への影響も含めて診察でご相談ください。
参考情報
本記事は、以下の研究などを参考に作成しています。
- Söderlund, G., Sikström, S., & Smart, A. (2007). Listen to the noise: noise is beneficial for cognitive performance in ADHD. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 48(8), 840-847.
- Nigg, J. T., Bruton, A., Kozlowski, M. B., Johnstone, J. M., & Karalunas, S. L. (2024). Systematic Review and Meta-Analysis: Do White Noise or Pink Noise Help With Task Performance in Youth With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder or With Elevated Attention Problems? Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry.



